大切な関係を、口約束のままにしないために
婚約、事実婚、同棲、パートナーシップ。
人と人とが親密な関係を築き、将来を共にしようとするとき、そこには多くの約束が生まれます。
「結婚しよう」「一緒に暮らそう」「生活費はこうしよう」「親に紹介する」「結婚相談所で成婚退会する」「マッチングアプリで出会い、結婚を前提に交際する」。
こうした言葉や行動は、人生の重要な選択に関わるものです。ところが、現実には、その多くが口約束のまま進んでいます。
昔は、「結納」「婚約指輪の交換」「相互の両親との顔合わせ」「結婚式への流れ」「婚前交渉の許容性」などの暗黙のプロセスがありました。
私は、このことに大きな問題意識を持っています。
弁護士として家族法の相談を受けていると、関係が良好なときには十分に話し合われず口約束であることがほとんどであることが、その後関係が変化した後に大きな事後的な紛争になる場面を多く見ます。
婚約していたつもりだった。結婚に向けて準備していた。生活費を負担していた。同居の準備をしていた。親にも紹介していた。将来の話もしていた。
それにもかかわらず、関係が破綻した後になると、相手方から「婚約ではなかった」「単なる交際だった」「将来の話をしただけだった」「本気の約束ではなかった」と主張されることがあります。
このとき、当事者の一方にとっては人生を左右するほど重要な約束であったにもかかわらず、「結納」「婚約指輪の交換」「結婚式の準備をしていない」という、客観的な証拠が十分でないために、法的には十分な保護を受けられないことがあります。
私は、弁護士会の家族法研究に関わり、また日本家族社会学会の会員として、婚姻法や家族関係を、法と社会の両面から考えてきました。
その中で強く感じるのは、現代では、婚約や結婚に向かう過程を支える社会的な仕組みが、以前よりも他人がかかわらない分弱くなっているということです。
かつては、家族、親族、地域共同体が、婚約や結婚に至る過程に一定程度関与していました。それが常に望ましいものであったとは限りません。古い家制度や家父長的な秩序には、個人の自由を抑圧する側面もありました。
しかし一方で、婚約や結婚が、単なる当事者二人だけの曖昧なやり取りではなく、一定の社会的な確認を伴うものとして扱われていた面もあります。
現代では、そのような社会的確認機能が弱くなりました。その代わりに、恋愛も、交際も、結婚に至る過程も、基本的には当事者個人の自由な選択に委ねられています。これは、とても大切なことです。誰と出会い、誰と交際し、誰と人生を共にするかは、個人の自由であるべきです。
しかし、その自由の裏側で、結婚に向けた約束が非常に不安定なものになっていることも事実です。
現代の親密な関係には、もう一つ大きな特徴があります。
それは、関係の入口が非常にカジュアルになっているということです。
高校生や大学生の自由恋愛のように、将来の結婚を前提としない交際があります。マッチングアプリを通じた出会いのように、出会いの入口自体が軽やかで、偶然性が高く、社会的な確認を伴わない関係もあります。
こうしたカジュアルな関係を、すべて法律で縛るべきではありません。恋愛は自由です。まだ将来を確定していない段階の交際まで、婚約や婚姻に準じるものとして扱うことは、かえって個人の自由を損なうおそれがあります。
しかし、問題は、その先です。
入口がカジュアルであったとしても、関係が進むにつれて、二人の関係は次第に重みを持つことがあります。単なるデートの相手だった人が、将来の配偶者候補になる。恋愛感情だけで結ばれていた関係が、生活費、住居、仕事、親族、財産、子ども、介護、相続といった問題を含む関係に変化していく。
そして、何より重要なのは、互いに他の人とは同じような親密関係を持たないという前提が生まれることです。
私は、このような関係を「インクルーシブな関係」と考えています。
当事者間で、「カジュアルな関係」か「インクルーシブな関係」の認識がずれているケースが多いです。
ここでいうインクルーシブな関係とは、単に生活や財産を共有する関係という意味にとどまりません。その中核には、貞操を守る義務があります。すなわち、単なる交際感情にとどまらず、相互の性的排他性、つまり貞操を含み込む関係です。
「この人と結婚に向かう」「この人との関係を特別なものとして扱う」「他の人とは同じような性的・親密な関係を持たない」「生活や将来を、この人との関係を前提に組み立てていく」。
このような前提が生じたとき、その関係は、もはや単なるカジュアルな交際ではなく本当に真摯なものとなります。
問題は、現代では、このカジュアルな関係とインクルーシブな関係との境界が、非常に曖昧になっていることです。
マッチングアプリで出会ったからといって、その関係が常にカジュアルであるとは限りません。入口はカジュアルでも、その後に結婚を約束し、互いに貞操を前提とし、生活や将来を共有する関係へ進むことがあります。
逆に、長く交際していたとしても、結婚の約束や貞操を含む明確な合意がない場合には、法律上は単なる交際と評価されることもあります。典型的なものはホストと同居していたというケースに見られます。
特に、結婚相談所で成婚退会された方には、この問題を強く意識していただきたいと思います。成婚退会は、通常、結婚に向けて進む意思を前提に、相談所のサービスを一区切りにする重要な場面です。
しかし、成婚退会後に、入籍時期、同居開始時期、住居、生活費、親族対応、結婚式、貞操を含む相互の義務、破談時の対応などが十分に整理されていないことがあります。結婚相談所を利用され無事成婚退会された方におすすめいたします。
また、マッチングアプリで出会い、結婚を約束した方にも、このサービスを利用していただきたいと考えています。お互いの経歴についてよく知らないうちに交際のみ進むことも不安があるかもしれません。
入口がカジュアルであっても、約束までカジュアルとは限りません。出会い方が軽やかであっても、その後の関係まで軽いとは限りません。
だからこそ、二人の関係がどの段階にあるのかを、関係が良好なうちに確認しておくことが大切です。
まだカジュアルな交際なのか。結婚に向かう真剣な関係なのか。互いに貞操を前提とする関係なのか。生活費や財産をどのように考えるのか。もし関係が変化した場合には、どのように話し合うのか。
婚約合意書、事実婚合意書、同棲合意書、パートナーシップ合意書は、相手を疑うための書面ではありません。相手を縛りつけるための書面でもありません。むしろ、二人の関係を大切にするためのものです。
もちろん、合意書に書けば何でも有効になるわけではありません。公序良俗に反する内容、一方に著しく不利な内容、過度に相手を拘束する内容や婚姻法上の身分関係形成に関わる事柄は、後に問題となることがあります。ですから、これまでは、家父長間の約束とされ文書でクリアにされることはありませんでした。貞操や不貞に関する取り決めについても、暗黙の了解とされましたが、暗黙の了解には互いの同質性が前提となります。
だからこそ、都市部では、弁護士が関与する意味があります。
このサービスは、婚約破棄の慰謝料請求をしやすくするためのものではありません。
むしろ、将来的には、婚約破棄の慰謝料訴訟がなくなることを願って立ち上げたものです。
裁判で過去を争うのではなく、事前に約束を確認する。家族法は本来、「未来に向けたルールメイキング」なのです。
傷ついた後に責任を問うのではなく、傷つけ合わないための合意を残す。
曖昧な期待を、明確な対話に変える。
大切な関係を、曖昧なままにしない。
大切な約束を、口約束のままにしない。
大切な人生の選択を、後から「言った・言わない」にしない。
カジュアルな関係と、貞操を含むインクルーシブな関係の境界が曖昧になった時代だからこそ、二人の合意を丁寧に確認し、形に残す必要があります。
現在、特に婚約破棄は慰謝料額が低すぎて、訴訟による事後救済が経済的に成り立ちにくく、事前にも事後にも救済されない社会学的な状態は望ましくありません。
大切な関係を、ちゃんと残す。
そのために、私たちはこのサービスを提供しています。